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手術同意書等に患者・家族に対し訴える権利を事前に放棄させる「訴権放棄」には判例上法的効果なし

医療現場においては、患者さんに侵襲的な医療行為をすることがしばしばあります。侵襲というのは簡単に言うと、身体を傷つける、という意味です。侵襲的な医療行為の代表格と言えば手術が想像しやすいのではないかと思います。また、副作用の可能性のある薬を使用することなども考えられます。このように、侵襲的な医療行為を行う前に患者さんに同意書を書いてもらうことがよくあります。

私は医療現場で10年ほど働いており、私自身で同意書を患者さんに書いてもらったことは何度もあります。この同意書の内容については、病院ごと、医療行為ごとに異なるのは当然ですが、患者さんが万が一不利益を被った場合に訴訟をしないように求める旨が書かれているものを見たことがありません。当然そんな同意書があれば問題だと思います。この件について気になったので調査室を使って調査をしてみました。

まず結論を書いておくと以下の2点になります。

○かつて手術同意書等に患者・家族に対し訴える権利を事前に放棄させる「訴権放棄」を文章で盛り込むことが見られた

○判例上上記訴権放棄は法的効果はないとされている。

→例えば静岡地裁浜松支部昭和37年12月26日では「(賠償請求権の放棄の誓約書)を以て当該手術に関する病院側の過失を予め宥恕(「ゆうじょ」 許すという意味)し、或いはその過失に基づく損害賠償請求権を予め放棄したものと解することは、他に特別の事情がない限り、患者に対して酷に失し衡平の原則に反すると解せられるから(略)被告は右誓約書を理由に損害賠償の責任を免れることはできないものというべく(略)被告の右主張はもとより失当といわなければならない。」

医療訴訟対策 日本産婦人科医会→3 )法律上の権利放棄書の法的意味

○学説では免責条項について無効説と一部有効説に分かれている。無効説はこのような条項について公序良俗違反等とし無効を主張する。

○一部有効説でも基本的に無効であるが、患者側に真意や合理的意思が認められる場合等例外を排除しない立場をとる。(出典:医療契約論 村山淳子著)

○また同意書、誓約書を医療契約と捉え、消費者契約法に基づき医療機関を「事業者」、患者を「消費者」とすると、訴権放棄等を内容とする条項は同法8条1項(※)により無効とされる。

以上の点から調査依頼の件については、判例、学説、契約法の観点いずれからも無効と解されるというのが現在の状況である。

(※)消費者契約法(抜粋)

第八条 次に掲げる消費者契約の条項は、無効とする。
一 事業者の債務不履行により消費者に生じた損害を賠償する責任の全部を免除し、又は当該事業者にその責任の有無を決定する権限を付与する条項

二 事業者の債務不履行(当該事業者、その代表者又はその使用する者の故意又は重大な過失によるものに限る。)により消費者に生じた損害を賠償する責任の一部を免除し、又は当該事業者にその責任の限度を決定する権限を付与する条項
三 消費者契約における事業者の債務の履行に際してされた当該事業者の不法行為により消費者に生じた損害を賠償する責任の全部を免除し、又は当該事業者にその責任の有無を決定する権限を付与する条項
四 消費者契約における事業者の債務の履行に際してされた当該事業者の不法行為(当該事業者、その代表者又はその使用する者の故意又は重大な過失によるものに限る。)により消費者に生じた損害を賠償する責任の一部を免除し、又は当該事業者にその責任の限度を決定する権限を付与する条項

というわけで、判例、学説、契約法の観点いずれからも無効と解されるとのことです。当然といえば当然ですが、これが人ではなく、ペットだとどうなるのか?調査をしてみたところ、少しややこしいようです。後日調査結果を公表します。

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